[セミナーレポート]買い物体験と売上を向上!~店内行動データの活用法と取り組み事例~<前半>
トークテーマ:アプリを活用した顧客体験として、何がプラスアルファで実現できるのか?
篠田:MGReではアプリのプラットフォームを作っていますが、アプリはあくまでスマホの中で動くアプリケーションでしかありません。なので、作れる顧客体験に限りがあり、「リアル」という点で弱みがあるのが実情です。この弱みを、タンジェリンさんのようなサービス「Store360(ストアサンロクマル)」を利用することで、強化できるのではないかなと感じています。
成田:リアル店舗とオンライン店舗(EC)というチャネルがあった場合、クロスチャネルで両方を使ってくださるお客様をどう増やしていくかという部分に課題を感じています。上記のデータをご覧いただくと、クロスチャネルで購買を行ってくださるお客様は、シングルチャネルで購買を行うお客様よりも購買単価が高くなる傾向にあることが分かります。また、右グラフをご覧いただくと、クロスチャネルを利用されるお客様の方がシングルチャネルのお客様に比べ、LTV(※1)が約2~3倍になっていますよね。このような事実から、クロスチャネルのお客様をどう増やしてくか、というのが課題という訳です。
※1 LTV(顧客生涯価値):顧客の経済的価値を示す指標で、ある顧客が企業との取引をするすべての期間において、どのくらいの利益をもたらしたのかを表す。
ここでひとつ重要なのは、「店舗に来たお客様をどうトラッキングしますか?」という部分かと思います。例えば、ECのようなオンラインであればログイン機能があるので、買う・買わないに関わらず、サイトを閲覧した・閲覧していないのデータはとれます。これを店舗に置き換えると、同じようにトラッキングできる術はないのかなと思います。基本的に店舗でのトラッキングは購買するタイミングでしかとれないので、来店されたけど購買に至らなかった方をどうトラッキングするか、というのは課題なのかなと…。逆に、アプリの中でのトラッキング周りはいかがですか?
篠田:OMOやオムニチャネルといわれるところで、オフラインとオンライン(店舗とEC)を行き来しながらお客様の行動をとらえましょう、という話はよく出てきます。ただ、店舗に来たお客様のデータを補足するのは、アプリでもすごく難しいですね…。というのも、店舗に入った時点では、どこの誰かというところが分からないんですよね。ただ、ログインした状態で店舗内でアプリを開いていただければ、ある程度の情報を得ることはできます。しかし、店舗でアプリを開くきっかけがなかなかないという実情もあり、アプリを通したオフライン顧客のトラッキングは、難しい部分ではありますね。
成田さん:やはりそうですよね。そこでポイントとなるのが、ユーザーID(会員ID)といわれるものなのかなと。EC側はユーザーIDでログインします。店舗側は、アプリを持っていてさえくれれば、アプリのログイン機能でユーザーIDが取れますよね。なので、どちらかというとアプリを持っている人が来店した時のデータをどう取るかが、OMOを実現するうえでの入り口になるのかなと思っています。ECで当たり前にするログインという行動を、店舗でもひとつの「体験」としてやっていただけるか、というのが重要かなと感じていますね。
成田さん:タンジェリンでは、アプリを鍵に、チェックインデータを使って来店された方のデータを収集するサービスを提供しています。おそらく、MGReさんのようなアプリプラットフォームでは、アプリ総ダウンロード数やMAU(※2)のようなKPIを設定しているかと思います。タンジェリンもKPIとして、店舗に入ってくるアプリユーザーの来店者数を設定しています。例えば、1日にアプリを持っている人、いない人も含めて1,000人が来店された際、そのうちアプリの利用ユーザー数は分かりません。定量的に出せるとすると、お会計のときにアプリを提示してくれればPOSにデータが残ります。しかし、来店したが購買に至らなかったお客様の中にも、アプリは持っている会員はいらっしゃいますよね。ここをしっかりチェックインデータを用いて活用していきましょうね、ということですね。
※2 MAU:“Monthly Active User”の頭文字を取ったもので、「月間アクティブユーザー数」のこと
成田さん:また、冒頭で申し上げた通りクロスチャネルを利用される方の購買単価・LTVが高くなることから、来店者数を増やしていくというよりもアプリユーザーの来店率をあげていこう、というのを目標にしています。
篠田:アプリの場合だと、どうしても会員証やポイントカードなどを提示したタイミングがお客様との最初のタッチポイントになりがちです。そうなると、基本的には潜在顧客というよりはリピーターをメインとしたトラッキングになってしまうんですね。ただ、店舗には来ているが購買に至っていないというブランドファンのお客様も多くいらっしゃいます。そのようなお客様に、どうアプローチしていくか、いかに来店してもらえるか、といった取り組みが重要になるかなと。ただ、現状ではアプリだとそのような施策を打つのは難しいです。GPSで近くに来たお客様を追うことはできますが、そもそもアプリを起動しているという前提条件が付きます。なので、会員として来店はするが購買までは至っていないお客様をトラッキングできる仕組みができれば、非常に強いと思っています。
成田:そもそもOMOの実現にあたって、店舗に来たお客様のデータをとれないことには、施策の正値化が難しいのかなと感じます。成田さん:いかにこの辺りの数字をライトに取れるか、というのがOMOを実現する上で鍵になってきますね。その中で、タンジェリンのサービス「Store360」を例に来店中のアプリ起動のきっかけを作るお話しを、させてください。アプリと聞くと、お客様が来店前や購入時に使う機能がメインというイメージがあります。そのため、来店から購入するまでの間に、お店の中で使える機能が少ないのかな、と感じています。顧客体験として、店舗内でこんな風にスマホアプリを使うといいですよ、というのを伝えつつ、購買前のお客様の行動データを取るのが重要ですよね。オムニチャネルの話でいくと、店舗のようなオフラインでの購買前の認知・検討というフェーズのデータが抜けているのが現状です。ここを埋めていかないと、OMOやオムニチャネルのカスタマージャーニーをしっかりととらえた施策が打てないのかなと…。来店してから購入するまでの行動をデータで取るとなると、店舗内でアプリを使ってもらうための施策とセットになってきますよね。「Store360」は、このタイミングでの行動データが分かるようになった結果、オフラインでのチェックインデータが取れ、かつデータのボリュームもアップし効果的な施策に活かすことが出来る、という流れです。また、SDKで提供している理由が、「Store360」の機能は店舗にいる時以外には不要な機能かつアプリ全体のUXを邪魔しかねないからです。お客様は、店舗にいない時の方がアプリを触っている時間は長いと考えています。店舗内だけで使える機能が目立ってしまうとユーザビリティが悪くなるかなと思っているのですが、そのあたりはいかがでしょうか?
篠田:成田さんがおっしゃる通り、店舗内向けの機能だけが目立ってしまうと、顧客体験を損なってしまう可能性はあると思います。北米の例でいうと、入店した瞬間に使える機能が切り替わる「インストアモード」というものがあります。北米は非常に店舗が大きいので、入店のタイミングで店内マップを出してほしいなどのニーズがあるんですよね。なので、今後は日本のアプリにも、モード切替という概念が出てくるのかもしれないな、とは思っています。
成田:私たちは、来店中のデータとしてまだまだ取れるところがたくさんあると思っています。そもそも、先ほどからお伝えしている通り、来店されたお客様のデータを網羅するためには、店舗へのチェックインが必要になってきます。ちなみに、アプリ側でとれる店内での行動データなどってあったりしますか?
篠田:そうですね、その辺のデータを取るには、まずは外部連携が必要かなと思っています。そもそも、ECサイトが普及しデータが当然のように取れる時代になり、ECデータが取れるのであれば実店舗のデータも取りたい!という流れになった気がします。しかし、店舗だとGPSがきかないので、店内の動きをトラッキングするのはハードルが高い。そうすると、店内の各ポイントごとにここを通ったかが分かるような施策が現状では最適かなと思います。具体的には、商品棚のところにスマホで読み込むバーコードを設置し、ECサイト内の口コミや商品ページに行けるようにしておきます。結果、お客様の商品接触の状況がある程度分かるようになるんですね。このように、ECサイトと店内のバーコードを連携することで大まかな店内での行動データの獲得を実現するという施策を実施されているお客様もいらっしゃいます。
成田:連携がやはり必要になる領域にはなりますよね。チェックインデータって、まだまだ活用のしようがあると思っていて、先ほどの篠田さんのお話しに、アプリの機能でバーコードをスキャンしECへ紐づける、という内容がありましたが、世の小売さんのJANコード(※3)って、どこのお店でも同じ商品だと同じものになっていると思うんですね。そうすると、顧客IDと商品とECまでは繋げられても、どこの店から分からない。これを解消するのに、チェックインデータが活きてきます。裏側でチェックインデータのデータだけ抽出することもできるので、MGReさんと連携をするだけで、どこのお店で誰が何を購入したかまで見ることができるようになるのかなと感じています。また、売り場滞留から買い物かごに入れる間の行動データを取るのに、ビーコンの活用もありなのではないでしょうか。細かい売り場単位でのデータを取るのは難しいのですが、大枠のゾーンであればビーコンを店舗内に複数置くことで実現可能です。店舗に入ってきて奥の特設コーナーに行きました、くらいまではデータとして取ることができます。また、タンジェリンにはビーコンデータを継続的に受信する技術もあるので、滞留時間もある程度出すことができるんですね。ただ、アプリを起動している時間も含まれたりはするので、100%正確な滞留時間とは言えないのですが、どれぐらいアプリとか使っていたかが分かります。例えば、アプリを使ってバーコードをスキャンをする際、少なくとも30秒ほどはかざすと思うんですよね。一方で、数秒の方は一瞬しかアプリを開かなかったということになります。このように、滞留時間を見てお客様の関心度を調べることができるのです。「アプリを見ながらこの商品を数分間見ていました」というようなデータが分かれば、このお客様はこの売り場に興味がありましたよね、と言えるのかなと。
篠田:このような施策って、ECサイトを見た、という顧客情報だけではちょっと信ぴょう性が薄いと思うんですよね。お客様の興味関心をしっかりと確かめたデータがあると、より先の施策に繋がっていくのかなと思います。
※3 JANコード(ジャンコード):いわゆる商品についているバーコードのこと。
成田さん:「Store360」のサービス内容に繋がるのですが、私たちのサービスでは、「誰が?どこで?」のオフラインデータ取得を最も得意としています。ビーコンを設置している店舗ごとにIDを切り分けていくので、誰がどこの店舗に来店したかというデータを取ることができるんですね。さらに、商品をスキャンする機能を使うと、誰がどこの店で何の商品に興味を持ったかまで見ることができます。また、タンジェリンの別サービスで、スタッフも含めてトラッキングができるものがあります。そうすると、誰がどこの店で何の所に興味を持ったかというお客様側の情報と、どのスタッフが接客をしたかという店舗側の情報を紐付けることが可能です。そのため、どんなお客様がいつご来店され、どのスタッフと接客・会話をしたかというデータまで拾っていけるので、いわゆるショールーミング(※4)が起こった際に店舗側の評価がしやすくなります。購買のトリガーになる店舗というのを、きちんと評価できるのが私たちのサービスです。もしこれがアプリの中で全て完結すると、ショールーミング的な文脈も含めて、OMOが実現できるのかなという印象です。
※4 ショールーミング(Showrooming):消費者が実店舗で商品を実際に見て触れたり試着したりした後に、その商品をオンラインで購入する現象のこと。
篠田:昔からある問題に、EC側と店舗スタッフの折り合いがつかない、というのがあると思います。店舗スタッフが一生懸命、接客して商品の説明をしても、その場でお客様がスマホを開いてECで購入をした、という事態など…。そうすると、店舗のスタッフの方が「もう本当やってらんないよ…」という気持ちになってしまうことがあるじゃないですか。でも、店舗での接客をきっかけにECでの購入に至ったということが追えるようになれば、貢献度が可視化され店舗とECのわだかまりも解消されると思うんですよね。もちろんお客様に対する顧客体験は非常に重要ですが、ブランド全体で協力してしっかり売上を立てていこう、というのもとても大切なのではないかと感じます。
成田:店舗に来てからECで購入する、というお客様ってそれが当たり前に染みついているのかなと思っていて。そうすると、無理に接客へもっていくというのは、違和感がありますね。最終決済をするチャネルは選択肢が自由にあって、そこはお客様に選んでいただくのがベストかなと。ただ、現状だと、店舗側がせっかく接客をして商品の良さを伝えても、結局ECで購入されてしまうと全く評価がされないですよね。この仕組みがしっかりできてくる先には、自信を持ってショールームミング接客ができるようになっていく世界があるなと。接客中にコードのスキャンなど、いわゆるデジタルを使いながらの対応をしていけばスタッフさん自身のログも残せますよね。結果、自身の評価ないし店舗自体も評価されると思います。例えば、売上はなかなか伸びないが、結構な数のお客様が来店される店舗があるとします。実は、このお客様たちって、店舗で実物を見たことをきっかけにECで購入しました、という方もいらっしゃると思うんですよね。接客に限らず、購買のきっかけを作った店舗が評価されないのってちょっと不毛だなと思っていて…。来店したからECでの購入に至りましたよ、というログが残せると良いかと思っています。
篠田:コロナ禍で、店舗に行けなくなったためオンラインで買うしかなく、ECに慣れた方も多くいらっしゃるはずです。結果、店舗の価値とECの使い分けがはっきり分かれたような気がしますね。
コロナ禍が明けた後を考えていくと、店舗・ECどちらもお客様が自由に利用できる状況というのは、用意していく必要があるのかなと思います。
成田:データ自体はすでに取れるようになっているので、それをどんどん活用することで、可能性が広がっていくのかなと思っていますね。ただ、私たちにもコントロールできない課題があって、冒頭にもお話しした「店舗の中でいかにアプリを使ってもらえるか」というところです。アプリを開こう、アプリを使おう、という部分がスタンダードになればなるほどデータのボリュームも増えますし、来店者の中のアプリ利用率も増えていくはずです。なので、冒頭にお伝えしたクロスチャネルとして購買サービスが増えるから客単価・LTVが高くなる、というストーリーが全体として繋がっているわけです。ちなみに、アプリを店内で使ってもらうための施策などありますか?
篠田:店内で使うというよりも、まずはアプリを案内し店内でインストールしていただくことが非常に重要だと思っています。アプリユーザーを増やす施策を、広告を使って実施するべきかというところですが、店舗側でアプリの価値をしっかり理解しお客様へご案内する方法が1番コストがかかりません。さらに、今まではレジの前でアプリを案内してインストールしてもらうのが一般的だったのですが、店舗に入った瞬間に面白い機能が使えるからインストールしてみてください、というのが最も効率的です。それこそ店舗の入口で、店員さんの案内やポップなんかでもいいと思うのですが、こういった訴求をすることが重要かと。アプリユーザーを増やすための最初の頑張りどころは、店舗内にこういう便利な機能がありますよ、という紹介と、アプリをインストールするための背中を押す作業ですね。
成田さん:データが増えれば増えるほどすごくいいデータが集まり、リターゲティングもできるようになってきますからね。